「世界を変える」に気をつけろ

ブログの力で世界を変える!  なんてことは考えていません。あしからず。

かもめが翔んだ日

読みかけて放置していた古い本を読んだ。
江副さんの「かもめが翔んだ日」。
成功と失敗がたくさん詰まった一冊。

著者は、とても慎重に、言葉を選んで書いたという印象。事件後で立場が立場だけにそう
ならざるを得ない面もあったろう。本書には、江副さんから見た経緯が記されているが、
それをそのまま受け止めにくい読者がいるであろうことを想像して書かれている。当時の
リクルート社員の大半が、自分の株式売却を快く思っていないだろうというという想定を
されていたのだろう。

こういう立場の人が自伝を書くのは簡単なことではない。ともすれば自分を正当化したり、
過去を美化したりしがちなのではないか。本書では江副さんは自分を飾ろうとしていない
ように思う。また、逆に卑下することもしていない。その絶妙のトーンが本書を読みやす
いものにしていると思う。

関係者が読めば、「それは違うよ」ということもたくさんあるんじゃないかな。しかし、創
業トップ自らが語る企業の半生として大変興味深い一冊。

 

本書の白眉は後半。新規事業の失敗や、不動産・金融事業の挫折、ダイエーへの株式売却
の下りがとても興味深い。どうやって企業は迷走するかというお手本である。

■多角化の難しさ
・不動産の急落で経営危機に陥ったリクルートコスモスをどう扱うか、リクルート経営陣
は混乱。子会社コスモスの不動産事業がリクルート本体とバラバラに営まれ、「あそこはう
ちの会社じゃない」という認識がリクルート経営陣にあったことがわかる。

“コスモスの取締役会は、リクルートにマンションの完成在庫を買い取ってほしいと要請
していたが、リクルートの常務会はそれに反対だった。
「リクルートがコスモス支援のために完成在庫を買い取れば、社員が反発しますよ」
「この問題は、コスモスとコスモスの取引銀行とで解決すべきことじゃないですか」
「リクルートがコスモスと死なばもろともになるのは避けたいですね」
これに対し、長年、グループ会社の資金調達を行ってきた財務担当の奥住邦夫専務は、
「高収益会社のリクルートが、コスモスを見捨てることはできません。銀行だけでなく、
世間がそれを許しませんよ」と常務会に理解を求めていた。
コンセンサスを得て結論を出すタイプの位田社長は、結論を出しあぐねていた。“

 

■位田社長と当時のリクルートの相性は?
江副さんは、ご自身の任命責任もあってか、位田社長を明示的には批判していない。
本書を読む限り、位田社長は立派な経営者かもしれないが、そのマネジメントスタイルが
この時点のリクルートに合っていなかったのではないかと思う。
グループが危機に瀕しており、大胆な決断が必要なタイミング。
位田氏のバランスを取る経営、慎重な経営は不適切だったのではなかろうか。

コスモス、FF問題について、江副氏は位田社長に対して意見表明せよと依頼する。
位田氏の提出した書面は、「コスモス、FFは自主再建で行ってほしいと思うものの、自力
での再建は難しいから、リクルートが支援していかざるを得ないだろう。しかし、リクル
ートが全面的に支援することを決めれば、リクルートの社員が反対する。それは避けたい。」
というものだった。
それに対して、江副氏は、「位田氏の気持ちは痛いほどわかる。だが、それでは銀行と膝を
交えた相談はできない。」と書いている。きっとじれったかったんだろうな。社長なんだか
らどっちかはっきりしろ!って言いたかったんじゃないだろうか。

 

■立場の違いが考え方も変える
「位田氏に苛立ちを感じていた」と告白する一方、立場が違うからだなという振り返りを
している。これは時間がたって客観視して出たコメントだろうな。その時はお互い熱くな
って相手の立場や考え方を慮る余裕なんてないはず。

“私がリクルートのトップを退任してから四年が経っていた。私と位田氏の考え方の違い
には、経営姿勢の違いだけでなく、執行部と大株主という立場の違いからくるものもあっ
た。
 もし会長を退いていなければ、私もこの段階で白旗を上げることはしなかっただろう。
だが、この時の私はそれを思う余裕もなく、位田氏に苛立ちを募らせていた。“


 

■バブル期に冷静になることは難しい
・バブルに溺れるファーストファイナンス
“FFには銀行からいくらでも融資してもらえた。その頃はリクルートもコスモスも業績が
絶好調で、それが過剰流動性によるものと気づかず、拡大路線をひた走った。”

・ノンバンクをニューエコノミーと間違える
“亀倉先生からは、何度も注意されていた。
「銀行が金を貸さないところにリクルートが金を貸して、銀行の上前をはねるようなこと
をしてはだめですよ。リクルートは情報誌だけをやっていればいいんですよ」“
江副さんが尊敬する先生の言うことも聞かないで突っ走ってしまった。
亀倉先生の言葉は当然のことなのに、それを聞けなくなってしまうという怖さ。

 

■事業撤退の難しさ
“平成3年、地価はさらに下落していた。それは、膨らんだ風船に穴が開き、急速にしぼ
んでいくかのようだったFFに不良債権が大量に発生。みるみるドロ沼に落ち込んでいった。
リクルートは「失敗と気づけばすぐに撤退する」をモットーにしてきた。しかし、FFの撤
退は難しかった。“

 

■危機に瀕して内部不一致が
・どっちの味方なんだという冷たい目線。これはつらいな。第三者的視点からみればどち
らが正しいか明白なのにね。

“奥住君は入社した昭和38年以来ずっと、リクルートの経理、財務、関連会社を担当して
きた人。また、金融界の事情に明るく、銀行からもとても信望の厚い人だった。
「リクルートがコスモス、FFを見捨てたら、そのあとリクルートは銀行から見捨てられま
すよ」と話す彼の言葉を、常務会は銀行寄りの意見と見ていた。その狭間で、奥住君はし
だいに寡黙になっていった。”

つらかっただろうなぁ。リクルートのためを本当に思っていった発言を銀行の回し者のよ
うにみられること。でもこういうことあるんだよなぁ。自分たちが視野狭窄になっている
ということがわからなくなってしまう人たち。

 

■人材不足で変えるべき人を変えられない辛さ
FFの白熊社長が辞意を表明。
江副氏は慰留。
“白熊氏に代わってFFの社長が勤まる人はリクルートにはいない。池田、白熊両氏が同時
に辞任すれば、金融機関からのグループに対する信用はしっついする、身のすくむ思いだ
った。”
不良債権の回収は、銀行出身のプロでも難しい。まして、リクルートの人にはできない。
白熊氏もまた、余人をもって代えがたい人だった。”

これ苦しいんだよなぁ。
こいつは動かさないとまずい、でも他に任せられる奴はいない、というデッドロック状態。
そして、だいたい人を変えられないでズルズルやってるうちに状態はどんどん悪化してい
くという・・・。すごく頭の痛い問題なんだけど、人材の層を厚くしていなかったことが
原因なのでやむなし。タレントを揃えたいって思っても、余裕がなかったり、良い人材に
巡り合えなかったり。そういうのも運の要素が結構あるのかな。

 

リクルートがダイエーの傘下に入ったのが1992年。
それからちょうど20年。
同社は前期900億円を超す連結営業利益を稼ぐ優良企業。
あれだけのピンチから立ち直れたのは、本業である情報産業が優良であり続けたから。
やっぱり強い本業を持ってるというのは強いね。


きれいにまとまんないけど、本稿はこれにて。